今回のテーマは、近年ますます重要性を増している「アルゴリズムトレード(通称:アルゴ)」です。
アルゴは一見すると「システムトレード」と同じように思われがちですが、実は目的も仕組みも大きく異なります。
金融に詳しくない方でも理解できるよう、元証券トレーダーである筆者が現場の視点も交えて丁寧に説明していきます。
この記事を読むと
📌アルゴリズムトレードとは何か分かる
📌システムトレードとアルゴリズムトレードの違いが分かる
📌実際に使われているアルゴ戦略の種類が分かる
Contents
アルゴリズムトレードとは?
アルゴリズムトレードとは、あらかじめ決められたプログラムに従って、コンピュータが自動的に売買注文を出す仕組みのことです。
このプログラムは、人間の判断に頼ることなく、市場の状況や取引ルールに基づいて瞬時に注文を執行します。
主に使われるのは「注文の執行を最適化する目的」で、特定の価格帯や時間帯で取引を分散させたり、大量の注文を目立たせずに市場に出したりするために利用されます。

筆者自身も証券会社で大量の銘柄を一斉に売買する際、個別株の板を見ながら売買するととても間に合わず、毎日アルゴを使って注文を出していました。
アルゴリズムトレードの主な特徴
次の3つが、アルゴトレードの代表的な特徴です。
アルゴリズムトレードの特徴
① 自動売買(感情を排除した取引)
あらかじめ決めたルールに従って、コンピュータが売買を自動で実行します。人間の「恐怖」や「欲望」に左右されない冷静なトレードが可能です。
② 高度な取引戦略に対応
テクニカル指標だけでなく、ニュースのキーワードや経済指標、出来高など、多様なデータを活用して取引ができます。
③ 高頻度取引(High Frequency Trading -通称HFT-)への対応
証券取引所のサーバーと同じデータセンターに機材を置く「コロケーション」を使い、ミリ秒単位のスピードで発注する超高速自動取引も可能です。
このように、アルゴリズムトレードは「売買のタイミングや執行を効率化する道具」として非常に強力な武器になります。
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システムトレードとの違い
アルゴとシステムはよく似ており、実際に共通する要素があります。
アルゴリズムトレードとシステムトレード違いを簡単にまとめるとこちらの表のようになります。
項目 | アルゴリズムトレード | システムトレード |
---|---|---|
定義 | 売買注文の執行方法を自動化する仕組み | 売買の判断ルールを自動化する仕組み |
主な目的 | 最適な価格・タイミングでの注文実行 | ルールに基づいた売買判断の自動化 |
使用者 | 主に機関投資家や高頻度トレーダー(HFT) | 個人投資家から機関まで幅広い |
代表例 | VWAPやTWAPの執行、HFT | 移動平均線のゴールデンクロスで買い、MACDでシグナルが出たら売りなどのテクニカル手法 |
VWAPとTWAPとは

TWAPが走っていると、1分おきなど、ピッタリ同じ間隔で同じ数量の注文が出てくるので見つけやすいです。
アルゴリズムトレードの目的:注文の効率的な執行
アルゴは、主に「どの価格で、どのタイミングで、どう発注するか」に焦点を当てた手法です。
たとえば、大量注文をそのまま出すと市場に影響を与えてしまうため、少しずつ目立たないように分割して発注するような使われ方をします。

個別株の板を見ていて「注文が入っているように見えないのに即座に約定する」ようなケースがありませんか?
こういった場所でもアルゴが活躍しています。
システムトレードの目的:売買判断の自動化
一方、システムトレードは「売買するかどうかの判断」を機械化する手法です。
テクニカル指標やファンダメンタルズに基づいたシグナルに従って、自動で売買を判断することが特徴です。
なお、システムトレードは手動でも実行可能なので、自動売買=システムトレードというわけではありません。
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実際の運用では、両者を組み合わせるケースも多い
アルゴとシステムはそれぞれ別の目的を持っていますが、実際の運用では併用されることも一般的です。
例:システムトレードで売買判断 → アルゴで注文を分割して実行

筆者も証券会社で自己勘定トレーダーとして働いていた際、執行アルゴを日常的に使っていました。
100銘柄を超える種類の個別株やオプションを扱う中で、現物株をまとめて売買するときによく使っており、むしろこれがないと仕事にならないくらいでした。
とはいえ、すべてが機械に置き換わるわけではなく、特にマーケット判断やプライシングには依然として人間の経験と直感が求められます。
トレーダーの仕事自体がまるまる機械に取って代わるにはまだまだ時間がかかるでしょう。
証券会社が提供する「VWAP取引」サービス
アルゴリズムトレードにはどんな種類がある?
アルゴリズムトレードは、使い手の目的によって大きく3つのタイプに分けられます。
アルゴリズムトレードの種類
✅売買判断を含む「高度なシステムトレード型アルゴ」
✅マーケットメイクや裁定取引をするアルゴ
✅注文を効率的に出す「執行アルゴ」
それぞれ詳しく見ていきます。
① 売買判断を含む「高度なシステムトレード型アルゴ」
このタイプは、「市場の動きに対してどう反応するか」をあらかじめ決めたルールに従って、超高速で自動的に売買を行います。

「アルゴ」といえばこのイメージですよね。
シストレアルゴ
例:テクニカル分析・ファンダメンタル分析・ニュースキーワードの検出など
特徴:決算発表直後など、人間では反応しきれない速度で取引が可能
人間のトレーダーが行っていた「考える」部分の多くをプログラムが肩代わりしています。
非常に強力である一方、高速すぎるがゆえにたまに暴走してしまったりとお茶目な一面もあります。
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②マーケットメイクや裁定取引をするアルゴ
市場の価格差や非効率を突いて利益を得ることを目的としています。

プロの業者っぽい動きをするアルゴですね。
このような取引はマーケットが電子化される以前から存在していましたが、現在はHFTと組み合わされ、ほぼすべてがアルゴで行われているのが実情です。
悪者にされることもありますが、相場のゆがみを直して流動性を提供する「市場の掃除屋」と言える存在です。
マーケットメイク・裁定取引とは
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③ 注文を効率的に出す「執行アルゴ」
もっとも汎用的に使われているのが、この執行アルゴです。
機関投資家や証券会社が、大口注文を目立たず・効率的に出すために活用しています。

筆者が毎日使っていたやつです。
代表的な執行アルゴ
VWAPターゲット執行:その日の出来高加重平均価格に近づけて執行
TWAPターゲット執行:一定の時間間隔で均等に発注
アイスバーグ注文:大口注文を板に少しずつ表示して執行
単純な分割発注に見えて、実際には市場の板状況に合わせて動くように開発されているものが多いです。

個人投資家としては、敵に回すと侮れない柔軟な動きをしてくることも。
トレーダーの仕事はAIやアルゴリズムに奪われるか?
補足:ややこしい「プログラムトレード」という言葉
「アルゴトレード」「システムトレード」と似た言葉に、「プログラムトレード」という用語がありますが、これも誤解を招きやすい言葉です。
本来の意味
証券会社などが、インデックス先物と個別株の“バスケット取引”を組み合わせて行う、自動売買戦略。
しかし、現在でも「プログラムトレード=システムトレードの一種」のように使われることもあります。
確かにシステムを使って個別株バスケットを発注しているのは事実なので、文脈によって意味が変わってしまう非常にあいまいな用語です。
「ブラックマンデー」におけるプログラム売買
まとめ:アルゴとシステム、違いを理解して使いこなそう
🔑アルゴは「注文の出し方」にフォーカスした自動化
🔑システムは「売買の判断」にフォーカスした自動化
🔑現実の取引では両者を併用するケースが多い
最終的にはどちらも「人間の判断や戦略の一部を自動化する道具」であり、使い手の理解と設計次第で威力を発揮します。
この記事が、トレーディングの自動化戦略やマーケットの仕組みに対する理解の一助となれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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