「トレーダー」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか?
チャートとにらめっこしながら日々トレードを繰り返す──そんな姿を思い浮かべる方も多いかもしれません。
でも実は、「トレーダー」と名のつく仕事には、証券会社、ヘッジファンド、プロップファーム、そして個人トレーダーなど、さまざまな形態が存在し、それぞれ仕事内容や目的、使っているお金の出どころまで大きく異なります。
この記事では、大手証券会社で8年間株式オプショントレーダーとして勤務した筆者の視点から、各トレーダーの違いや業界構造を分かりやすく解説します。
この記事を読むと
📌個人・証券・ファンド系など「トレーダー」の違いが整理できる
📌セルサイド/バイサイドなど業界用語の本質がわかる
📌セールス・トレーダーや業者間ブローカーなど、表に出にくい仕事もわかる
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Contents
トレーダーと一口に言っても種類は多い
金融の世界では、以下のような様々な「トレーダーを名乗る仕事」が存在します。
種類 | 所属 | 資金源 | 裁量の度合い | 主な業務 |
個人トレーダー | 自営業 | 自己資金 | 完全に自由 | 自己資金の運用 |
プロップトレーダー | プロップファーム(自己勘定トレードを専門的に行う会社) | 会社資金(自己資本) | 高い | 会社資金の運用 |
大手証券トレーダー | 証券会社 | 会社資金(バランスシート) | 中くらい | 大口のマーケットメイク |
ヘッジファンドトレーダー(ファンドマネージャー) | ヘッジファンド | 顧客資金 | 高い | 顧客資金の運用 |
機関投資家トレーダー | 機関投資家(ファンド、銀行、保険会社など) | 顧客資金 | 低い | 注文の適切な執行 |
自己勘定(じこかんじょう)
会社の自己資金を使って行う取引のこと。
対して、顧客の資金を預かって取引を成立させることを委託勘定(いたくかんじょう)といいます。
バイサイドとセルサイドの違い
金融業界では、立場によって以下のように呼び分けられます。
🔑バイサイド:手数料を払う側(顧客)
例:ヘッジファンド、年金ファンドなど
🔑セルサイド:手数料を受け取る側(業者)
例:証券会社のトレーダーやブローカー
株などを買う人が文字通りに「バイサイド」というわけではなく、あくまでも"業者か顧客か"を指すための用語です。
証券会社の自己売買部門はセルサイドに該当し、ファンドや銀行の運用部門などはバイサイドに分類されます。
ただし、プロップファームのように業態はセルサイドでも、中身はバイサイドに近い(自己資金の運用だけを行っている)、という曖昧な例もあります。
また、セルサイドのトレーダーは「ディーラー」と呼ばれることもあります。
証券トレーダーの実情:会社の規模で違う
証券トレーダーは会社の規模と収益構造、顧客基盤によっても仕事内容が大きく変わってきます。
大手証券会社の場合
大手証券の特徴は次のとおりです。
✅顧客基盤が大きく、常に大量の注文(フロー)が入ってくる
✅トレーダーは主にマーケットメイク業務を行う
✅マーケットメイクによる顧客対応やヘッジの延長線上で自己勘定トレードを実行

つまり、顧客ありきのトレーディングをやっているハモ。
マーケットメイク業務がどのようなものかについては次の記事で説明します。
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日本でグローバル基盤を持つ代表的な大手証券
国内系より外資系の方が多いことに驚かれる方も多いかもしれません。
大手証券は世界経済を相手にしているため、大手国内系のライバルが多数の外資系グローバル銀行になるのはむしろ自然なことです。
また、上記のリストに個人投資家おなじみのSBI証券、楽天証券、松井証券など、代表的なネット証券が含まれていないことを不思議に思われるかもしれません。
ネット証券はマーケットメイクや自己勘定取引よりも、顧客に対する売買執行インフラの提供に特化しています。
そのため、トレーディング部隊を配置する必要性が大手証券とは大きく異なるのです。

勝負の土俵が異なるということハモ。
売上高で国内上位を占める証券会社は、機関投資家や超富裕層のフローから収益の大部分を得ています。
グローバルな顧客基盤からの超大口注文を効率よく処理するためのサービスの一環として、自己勘定トレーダーが必要なのです。
中小証券の場合
中小証券は次のような特徴があります。
✅地場の個人顧客に営業活動を展開
✅マーケットメイクより自己売買の比重が高い
✅実質的に完全プロップファーム的な証券会社も多く存在

よくイメージされるような、会社資金を運用するトレーダーはこちらに属するということですね。
代表的な中小規模の証券
証券会社の規模が小さくなってくると、より地元に根差した個人顧客層をもとに、営業を行う戦略が中心となります。
大口注文に対してマーケットメイクする必要性はあまり高くないため、値付け業務を行うトレーダーが配備されていることは少なく、あったとしても小規模です。
プロップファーム所属のプロップトレーダーを先ほど紹介していますが、日本におけるプロップファームは、これら中小証券会社の自己ディーリング部門であることが一般的です。
"工藤哲哉(著)百戦錬磨のディーリング部長が伝授する「株式ディーラー」プロの実践教本"という書籍で、運用ディーラーの仕事について解説されています。
個人投資家としても役に立つ内容が多いため、おすすめです。
プロップファームのディーラーについて学べる書籍
こちらはアメリカのプロップファームと、その戦略を紹介する書籍です。やっていることは日本のディーラーとほぼ同じといえます。
アメリカのプロップファーム
大手証券内のトレーダー分類
大手証券では、資産の種類(アセットクラス)と商品性によってチームが分かれています。
証券会社で扱われる主なアセットは下記の4種類です。
代表的なアセットクラスの分類
✅株(Equity)
✅債券(Bond)
✅クレジット(社債・CDS)
✅為替(FX)
商品も様々ですが、いくつか例を挙げてみます。
商品性による分類
📌現物(cash)
📌デリバティブ(オプション、仕組債など)
📌スワップ(金利Swapなど)
📌内債(JGBなど)
📌フォワード(株、FXを参照するものなど)

筆者はエクイティのデリバティブ部門に所属している自己トレーダーでした。
商品トレーダーとは?
セールス・トレーダーという職種
株式部門特有の職種で、「セールス・トレーダー」という人たちがおり、自己勘定トレーダーとは区別されます。

「執行(エグゼキューション)トレーダー」、「委託トレーダー」とも呼ばれます。
どんな仕事?
セールス・トレーダーの仕事は次のとおりです。
✅顧客の注文を、取引所や自己勘定トレーダーに取り次ぐ専門職
✅会社の自己資金を売買するわけではない
✅大口注文をうまく処理する仕事
✅どちらかといえば「セールス」寄り
「トレーダー」を名乗っていますが、顧客が要求する銘柄を最適な価格で執行するのが最大のミッションです。
セールス・トレーダーと自己勘定トレーダーの大きな違いは、「顧客のお金」で注文をだしているかどうかという点です。
この観点からいえば、セールス・トレーダーはどちらかといえば「セールス」の側面が大きい仕事といえます。
執行方法の工夫
為替や債券とは異なり、株は「取引所」で売買できます。
小口注文であれば、単に証券会社を通して取引所に発注するだけで済むのですが、大口注文の場合、インパクトや秘匿性に注意しなければなりません。
そこで、顧客の選択肢は3つあります。
大口顧客の選択肢
①(証券会社経由で)取引所にそのまま注文を出してもらう
②自己勘定トレーダーに値段を提示してもらい、直接取引をする(相対取引)
③「セールス・トレーダー」に上手に注文を執行してもらう
為替や債券など、取引所が存在しない商品の大口注文は②しかありません。
しかし、株には注文執行の専門家であるセールス・トレーダーが証券会社の中にいるため、③の選択肢がとれるのです。
セールス・トレーダーは、顧客のニーズをなるべく満たすため、次のような多くの選択肢から最適な注文方法を選びます。
セールストレーダーのとる注文執行方法
✅1日かけて手作業で細かく注文を取引所に出す
✅自社のアルゴリズムトレードを使用して発注
✅自己勘定トレーダーに取り次ぐ
✅他の顧客の注文と社内でマッチングさせる
こうしたサービスに対し、顧客は委託手数料を支払うことになります。
トレーダーの仕事はなくなるか?
業者間ブローカー:証券業界の裏方的存在
ブローカーとは?
トレーダーと似た職種で「ブローカー」というものもあります。
ブローカーとは注文の取次を行う人のことです。
前述のセールス・トレーダーも広義のブローカーの一種ですし、そもそも証券会社自体がブローカーです。
かつては証券取引所に「場立ち」と呼ばれたブローカーがたくさんいましたが、取引の電子化によって消滅しました。
トレーディングの有名な書籍、"ジャック・D・シュワッガー(著)マーケットの魔術師シリーズ"でも、元ブローカーのトレーダー達が数多くいます。
全てのトレーダーにとってためになる書籍なので、ぜひ読んでみてください。
全トレーダーの必読書!マーケットの魔術師シリーズ
業者間ブローカー(IDB)の役割
しかし、今でもブローカーと呼ばれる職業は存在します。
その一つが「Inter-dealer broker (Broker's broker)」、すなわち「業者間ブローカー」です。

略して「IDB」とも呼ばれます。
業者間ブローカーの仕事
✅証券トレーダー同士の注文を仲介
✅社内で処理できない在庫ポジションを他社とマッチングさせる
大手証券会社の自己売買部門がマーケットメイクを行うにあたって、いかに効率よく在庫を処理するかが重要になります。
例えば買いポジションを抱えたときに、他に買ってくれる顧客が見つかればいいのですが、いつもそうとは限りません。
時には証券会社によってポジションの偏りが生じることがあります。
そういったときに、証券会社間(業者間)でトレードを成立させて手数料をもらうニッチなビジネスが「Broker's(証券会社の) broker(取次業者)」です。
国内系ブローカーとして有名な東京短資株式会社による、"東短リサーチ(株) 東京マネー・マーケット"という書籍では、短期金融市場ブローカーの目線から見た金融市場の動向が解説されており、こちらもおすすめです。
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余談
まとめ
🔑トレーダーには様々な種類がある(個人・証券・ファンド等)
🔑バイサイド/セルサイドという業界構造を理解すると職種が見えてくる
🔑証券トレーダーは会社規模や顧客基盤で仕事内容が変わる
🔑セールス・トレーダーや業者間ブローカーなど裏方的な職種も重要
🔑今後はAIとの共存が求められる職種であり、専門性がますます問われる
別の記事では、大手証券トレーダーの1日の仕事の流れや、誰もが気になる収入事情を具体的に紹介しています。
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