今回のテーマは「暴走アルゴ」です。
高速化・自動化が進む金融市場において、時としてアルゴリズムの暴走が個人トレーダーにとって絶好のチャンスとなることがあります。本記事では、暴走アルゴの典型的なパターンと、それを逆手に取る具体的な戦略を解説します。
この記事を読むと
・暴走アルゴの種類が分かる
・個人投資家が利用できるアルゴ暴走のパターンが分かる
・暴走アルゴを利用したトレード戦略が分かる
そもそもアルゴとは?
アルゴリズムトレードとは、あらかじめ決められたプログラムに従って、コンピュータが自動的に売買注文を出す仕組みのことです。このプログラムは、人間の判断に頼ることなく、市場の状況や取引ルールに基づいて瞬時に注文を執行します。
アルゴリズムトレードに関しては別の記事で詳しく解説していますので、そもそもアルゴが何かよくわからないという方はこちらをお読みください。
▼ 関連記事
-
-
アルゴリズムトレードとは?システムトレードとの違いと活用事例を解説
2025/6/15
今回のテーマは「アルゴリズムトレード」、通称"アルゴ"です。 近年、金融市場でますます重要性を増している「アルゴリズムトレード(通称:アルゴ)」。筆者も普段トレードをしている中、あちこちにアルゴの気配 ...
アルゴが暴走する典型的な流れを図解してみました。多くの場合、市場の急変動がきっかけとなって連鎖的にアルゴが反応してしまう流れになります。
暴走アルゴの例
フラッシュクラッシュ(Flash Crash)
2010年5月6日、米株式市場で数分間にわたり主要指数が急落・急反発する「フラッシュクラッシュ」が発生しました。原因としては高頻度取引(HFT)アルゴリズムが連鎖的に売り注文を出し合い、流動性が一時的に枯渇したと推測されています。
こういった現象はその後も株式市場や為替市場で何度も起こっており、アルゴの代表的な暴走パターンとされています。
高頻度取引(HFT)についてはマイケル・ルイス(著)「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」という本がおすすめです。マイケル・ルイス氏の本は多くに日本語訳があり、初心者でも面白く読めるため、高速取引黎明期の裏側をのぞき見たい人にぴったりです。
HFTについて楽しく学べる書籍
過剰なポジション積み上げでロスカットループ
あるアルゴリズムが予期しない市場状況下で一方向に大量のポジションを積み増し、一度マーケットが反転するとロスカット注文が連鎖的に発動してしまうパターンです。上記のフラッシュクラッシュの小規模バージョンともいえます。
特定のアルゴにおいて、リスク管理のパラメータ(最大許容損失、ポジションサイズの上限)が不適切に設定されていることが主な原因です。市場の変動が設計者の想定する範囲を超えており、アルゴリズムの前提が崩れるとこのような暴走が起こります。
自己売買ループ
複数のアルゴが互いの注文をトリガーと勘違いし、売買を繰り返して実需のない価格変動を引き起こすことがあります。個別株の板が薄い銘柄などでよく見かけます。
本来は人間のミスを逆手にとって稼ぐように設計されていると思われますが、他のアルゴの注文を人間の注文と誤認したり、同一開発チーム内で別のアルゴを作動させているとサッカーのオウンゴールのように意図しない自爆をしてしまうことがあります。
誤ったデータでトリガーを引いてしまう
ニュースのキーワードや外部の価格情報を拾って動作するタイプの場合、誤配信でも正しい情報と勘違いして取引してしまうことがあります。
データを取り込んだポイントで、正規化や検証など前処理のプロセスがしっかり入っていればある程度予防になるとは思われますが、そもそもアルゴは自動売買のスピードを売りにしているので、このタイプの暴走を防ぐのは開発者にとってなかなか難しいと考えられます。
ロジックのバグや設計ミス
そもそも、という話ですが、バグが完全に除去されていない状態でアルゴを実運用してしまい、思わぬ暴走を引き起こすケースがあります。
例えば特定の状況でエントリー条件とイグジット条件が無限ループするような実装になっていた、などですね。不十分な対策が原因になるため、ユーザーとしてはこの種の暴走はなんとしてでも防がなければなりません。
暴走とはいえないがちょっと間抜けなアルゴの例
先ほど紹介した暴走アルゴはまさに「暴走」の例でしたが、おそらく意図された通りに動作しているものの、「それって本当に儲かっているの?」と思ってしまうようなアルゴも存在します。
地震アルゴ
日経先物でよく見かけます。地震が多い日本ならではですが、地震発生のヘッドラインに即座に反応して日経先物に瞬間的な売りを出してきます。2011年の東日本大震災における株価暴落などを参考に設計されていると思われますが、市場に大きなネガティブインパクトをもたらす規模の地震は稀なので、多くの場合では即座にリバウンドが入ることになり、おそらく買い戻しの過程では損失になっていると考えられます。
CTA風アルゴ
CTA(投資顧問会社)の多くは様々な先物市場で順張り運用していると見られています。彼ら自身のアルゴなのか、追従者が設計したものかは不明ですが、先物が新高値や新安値をつけた瞬間に順張りで瞬間的に大きな注文を入れてくるアルゴがいます。CTAの順張り戦略は、互いに相関の低い様々な市場を同時監視して、トレンドが出たと判断した銘柄にこのような注文が入るのは理にかなっていますが、一種の「雑な売買」として老獪なマーケット参加者の餌食になっている光景(ダマシのブレイクになる)も見かけます。
CTAの多くは「タートルズ型」のトレンドフォロー戦略を採用していると言われます。タートルズの売買手法についてはこちらの書籍がおすすめです。
タートルズの手法を学ぶおすすめ書籍
逆指値狩りアルゴ
市場倫理的にどうかという視点はここでは一旦置いておきますが、逆指値注文をわざと発動させて、それを狩りに行く動きというのはアルゴが発達する前から見られるものです。もちろんこの伝統的な戦略を採用しているアルゴはたくさん存在します。
このタイプは戦略自体にある程度の優位性(エッジ)はあると考えられるので、長期的に見れば利益を出してそうですが、競合も多く存在するのでパイの奪い合いのような状況になっているように思えます。筆者自身、個別株の板でもよく見かけており、このアルゴが逆指値を発動させる売りを入れてきたなと思ったら先回りして買い、逆指値アルゴに売りつける「逆指値狩り狩り」のような戦略を採用することがあります。
個人トレーダーがとるべき5つの戦略
本記事は主に個人トレーダー向けに書いていますので、個人トレーダーがこのようなアルゴリズムの暴走を逆手にとるには、どのような戦略をとるべきか考えてみましょう。基本的には短期的な市場の歪みを狙った裁定戦略となります。
逆張りスキャルピング
アルゴ暴走による一時的な急騰/急落に対して、反発を狙って逆張りでエントリーする戦略です。フラッシュクラッシュ、誤発注などの急激で一瞬のスパイクを刈り取ることを狙います。
ポイントとしては、見つけた瞬間に躊躇せずエントリーすること、または事前にここまでは下がらないだろうという場所に指値を入れておくことです。前者はかなりの反射神経と勇気が必要で、後者は余力を無駄にしてでも指値を入れ続ける根気がいるので一長一短ではありますが、リスク/リターン比はかなり優れている戦略になります。
逆張り手法を学べるおすすめ書籍
筆者自身も、普段のトレードで資金余力が十分ある場合は、フル板を見て下の方に買い指値を入れておくようにしています。
ほとんどの場合で指値が約定することはありませんが、ごくまれにこれが刺さることがあり、リスク/リターン比が非常によいトレードになるため、一回の成功で十分すぎるほどの利益が得られます。
「板が薄い」ということは必ずしも「下がっても買い手がいない」という意味ではありません。「どうせ下がらないだろうから余力の無駄だし注文は入れないでおこう」というケースがほとんどだと思われます。
したがって、実際に価格が急落すると、「その値段なら買いたかった!」と買いが殺到し、チャート上では大きな下ヒゲが形成されることになるのです。
マーケットメイク型アービトラージ
価格の急変時に板の厚みやスプレッドの拡大を利用して、スプレッド内で細かく小さな利益を抜く戦略です。一般的に板読みスキャルピングとも呼ばれますが、板が薄い銘柄でアルゴの暴走によりボラティリティが拡大したと判断したときに、積極的に売りと買いを繰り返し入れていきます。
もちろん他の市場参加者やマーケットメイクアルゴと競合することになるので、それなりの経験と反射神経が必要です。
筆者も個人トレーダーになってから板読みデイトレードを実践しており、時折明らかに変なアルゴがいるなと思うときがあります。もちろん大チャンスです。
ヘッドラインアルゴ狩り
誤情報に反応したアルゴと逆のポジションをとり、巻き戻しを狙う戦略です。要人発言の誤訳や、誤ったニュース、誤配信データなどを冷静に判断し、素早く反対の注文を入れる必要があります。
紹介しておきながら、ですが、筆者はあまり反射神経がいいタイプではないため、このタイプのトレードが苦手です。素早い状況判断とともに、躊躇せずに注文を出す姿勢が求められるため、強靭なメンタルを鍛えるか、発注システムを自動化するスキルがあれば有利になります。
マルチマーケットアービトラージ
1つの取引所あるいは銘柄においてアルゴが暴走し、異常な価格をつけている瞬間に、他の市場における価格と比較して裁定ポジションをとる戦略です。例として、先物にアルゴ暴走の買いオーダーが出ているときに"先物売り/現物バスケット買い"を同時に行う、A取引所とB取引所で異常な価格差を見つけたらポジションをとる、などがあります。
こういった取引は当然ながら他の高速取引参加者と競合してしまうため、個人トレーダーとしても高速なデータ取得と注文執行ができる環境が必要になります。また、裁定対象の商品にそこそこ流動性がないと成立しません。
逆指値狩り狩り
間抜けなアルゴの項目で触れましたが、アルゴによって強制的に逆指値注文が巻き込まれたと思った直後にエントリーし、急反転を狙う戦略です。ストップロスはサポート/レジスタンス付近に置かれることが多いため、ストップを狙う動きがどの価格帯で起こりそうか事前に察知しやすいケースがあり、板を観察して動きが出たのを「見てから動ける」のがポイントです。
筆者自身もこのパターンは頻繁に利用しています。特にマーケットの動きが少ないときや、下落しそうな怪しい雰囲気があるとき、フル板を見て厚い買い板が割れたらどこまで下がるか、という目線で指値を入れておくことが多々あります。
近年の個別株の板にはどこでもアルゴが跋扈しているため、「逆指値狩り」で急落するパターンは頻繁に見ることができ、そこが我々個人トレーダーの「狩場」になるのです。
注意!
・張り付き or 自動化が必須:アルゴ暴走は予測不能かつ瞬間的なので、常に張り付くか、シグナルに自動で高速反応する仕組みが不可欠です。
・逆張りリスク:アルゴ暴走が本物のトレンド転換だった場合、逆張りは大損失につながるリスクがあります。
・個人の技術的限界を考慮:サーバー遅延、スリッページ、板情報の精度など、不測の事態に備えておく必要があります。
・厳格なリスク管理:たとえ一瞬で反発するとしても、貫通されたときに強制ロスカットになるようなポジション(高レバレッジ買い、空売り)は避けましょう。
まとめ 暴走アルゴを理解し、うまく利用しよう
ここまで暴走アルゴの種類と、個人トレーダーが狙うべき戦略を見てきました。市場の混乱はリスクでもありますが、同時にチャンスでもあります。アルゴの特性を理解し、冷静な判断と準備、リスク管理をもって臨めば、個人トレーダーにも十分に勝機はあります。
今回は以上となります。トレードのヒントになれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
▼ 関連記事
-
-
アルゴリズムトレードとは?システムトレードとの違いと活用事例を解説
2025/6/15
今回のテーマは「アルゴリズムトレード」、通称"アルゴ"です。 近年、金融市場でますます重要性を増している「アルゴリズムトレード(通称:アルゴ)」。筆者も普段トレードをしている中、あちこちにアルゴの気配 ...
▼ この記事で紹介した商品まとめ
HFTについて楽しく学べる書籍
タートルズの手法を学ぶおすすめ書籍