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証券トレーダーという職業① いろいろなトレーダーの違いを解説

「証券会社の『トレーダー』って実際どんな仕事?」

そう思って検索しても、正確な情報にたどり着くのは意外と難しいものです。

筆者は大手証券会社で8年間、株式オプショントレーダーとして働いていました。現場のリアルな視点から、証券トレーダーの仕事、種類、役割、そして誤解されがちなポイントまで丁寧に解説していきます。

この記事を読むと

・様々な「トレーダー」の種類と違いが分かる
・証券会社に規模によるビジネスの違いが分かる
・セールス・トレーダーや業者間ブローカーなどあまり知られていない職業の存在が分かる

証券トレーダー

いろいろな「トレーダー」

トレーダーの分類

金融の世界には「トレーダー」を名乗る職業が多数存在し、それぞれ微妙に違いがあるため混乱しがちです。例として以下のような「トレーダー」が存在します。

種類 所属 資金源 裁量の度合い 主な業務
個人トレーダー 自営業 自己資金 完全に自由 自己資金の運用
プロップトレーダー プロップファーム(自己勘定トレードを専門的に行う会社) 会社資金(自己資本) 高い 会社資金の運用
大手証券トレーダー 証券会社 会社資金(バランスシート) 中くらい 大口のマーケットメイク
ヘッジファンドトレーダー(ファンドマネージャー) ヘッジファンド 顧客資金 高い 顧客資金の運用
機関投資家トレーダー 機関投資家(ファンド、銀行、保険会社など) 顧客資金 低い 注文の適切な執行

自己勘定(じこかんじょう)

会社の自己資金を使って行う取引のことです。対して、顧客の資金を預かって取引を成立させることを委託勘定(いたくかんじょう)といいます。

バイサイドとセルサイド

金融業界における役割によって、「バイサイド」、「セルサイド」という仕事の分け方があります。

バイサイドは"buy"、すなわちものを買うことから転じて、「手数料を払う側」、セルサイドは"sell"なので、「手数料を受け取る側」となります。株などを買う人が文字通りに「バイサイド」というわけではなく、あくまでも業者か顧客かを指すための用語です。

上記のトレーダー種別においては、マーケットメイク業務を行う証券会社のトレーダーがセルサイド、それ以外はすべてバイサイドとなります。

また、セルサイドのトレーダーは「ディーラー」と呼ばれることもあります。プロップファームは機能を考えるとバイサイドですが、日本では証券会社の形態をとっていることが多いため、完全に自己売買のみ、マーケットメイク業務を一切行っていなくても「証券ディーラー」と呼ばれることが多いです。

会社の規模による違い

またややこしいのですが、証券会社のトレーダーが全員セルサイドと呼べるわけではなく、会社の規模と収益構造、顧客基盤によっても所属トレーダーの仕事内容は変わってきます。

大手証券会社

大手の特徴は大規模な顧客基盤を持っていることです。国内証券会社であれば巨大なリテール(個人・中小法人顧客)部門があり、外資系大手証券会社でもホールセール(金融機関向け)部門において機関投資家の顧客を多く抱えています。

顧客の注文(フロー)が常に流れてくるため、大手証券会社所属の自己トレーダーはマーケットメイク業務をメインに行いながら、ポジションの管理を行う一環として、追加収益を狙うためのトレーディングを実行しています。「自己資金運用」ではなく、「顧客対応」というところが大きなポイントです。

マーケットメイク業務がどのようなものかについては次の記事で説明します。

日本でグローバル基盤を持つ代表的な大手証券会社

国内系より外資系の方が多いことに驚かれる方も多いかもしれませんが、大手証券の業務は世界経済を相手にしているため、大手国内系のライバルが多数の外資系グローバル銀行になってくるのはむしろ自然ということになります。

また、上記のリストに個人投資家おなじみのSBI証券、楽天証券、松井証券など代表的なネット証券が含まれていないことを不思議に思われるかもしれません。ネット証券はマーケットメイクや自己勘定取引よりも、顧客に対する売買執行インフラの提供に特化しています。そのため、トレーディング部隊を配置する必要性が大手証券会社とは大きく異なるのです。勝負の土俵が異なるということですね。

売上高で国内上位を占める証券会社は、機関投資家や超富裕層のフローから収益の大部分を得ています。こういった会社では、グローバルな顧客基盤からの超大口注文を効率よく処理するためのサービスの一環として、自己勘定トレーダーが必要になるのです。

中小規模の証券会社

証券会社の規模が小さくなってくると、より地元に根差した個人顧客層をもとに営業活動を行う戦略が中心となります。

大口注文に対してマーケットメイクする必要性はあまり高くないため、値付け業務を行うトレーダーが配備されていることは少なく、あったとしても小規模になります。

プロップファーム所属のプロップトレーダーを先ほど紹介していますが、日本におけるプロップファームは、これら中小証券会社の自己ディーリング部門であることが一般的です。

代表的な中小規模の証券会社

筆者はこのタイプのトレーダーを経験していないので、その仕事内容に関してあまり詳しく述べることはできませんが、"工藤哲哉(著)百戦錬磨のディーリング部長が伝授する「株式ディーラー」プロの実践教本"という書籍で、運用ディーラーの仕事について解説されており、個人投資家としても役に立つ内容が多いため、おすすめです。

プロップファームのディーラーについて学べる書籍

まだまだある「トレーダー」

まだまだあるトレーダー

トレーダーの種類が多すぎて話があちこちに飛んでしまうので、ここからは大手証券会社の(セルサイド)トレーダーに絞っていきます。

担当アセット

証券トレーダーの部隊は取り扱うアセットクラスと商品によって分かれていることがほとんどです。

アセットクラスとは、主に株(エクイティ)、債券(bond)、クレジット(社債・CDS)、為替(FX)の分類を指しています。

商品は様々ありますが、現物(cash)、仕組み商品(主にoptionを内包したデリバティブ)、スワップ(swap)、内債(JGBなど)、フォワード(株、FXなど)といった細かい区分が存在します。

それぞれの組み合わせに対して担当トレーダーがおり、例えば筆者は、

私はエクイティでデリバティブビジネスを担当している自己トレーダーでした。

と名乗るわけですが、この場合は"株式部門"の"デリバティブ(オプション)"担当の"自己勘定トレーダー"をやっていた、ということです。

商品トレーダー

セールス・トレーダー

株式部門特有の職種で、「セールス・トレーダー」という人たちがおり、自己勘定トレーダーとは区別されます。「執行(エグゼキューション)トレーダー」、「委託トレーダー」とも呼ばれます。

為替や債券とは異なり、株は「取引所」で売買することができます。しかし、個人などが取引所に直接アクセスできるわけではなく、必ず取引所に登録された証券会社を通して注文を流すというルールになっています。

小口の注文であれば、単に証券会社を通して取引所に発注するだけで済むのですが、大口注文の場合、インパクトや秘匿性に注意しなければなりません。そこで、顧客の選択肢は3つあります。

①(証券会社経由で)取引所にそのまま注文を出してもらう
②自己勘定トレーダーに値段を提示してもらい、直接取引をする(相対取引)
③「セールス・トレーダー」に上手に注文を執行してもらう

為替や債券など取引所が存在しない商品で大口注文をトレードするには②しかありませんが、株の場合は注文執行の専門家であるセールス・トレーダーが証券会社の中にいるため、③の選択肢がとれるのです。

このとき、セールス・トレーダーは顧客のニーズをなるべく満たすことができるように多くの選択肢から最適な注文方法を選びます。1日かけて手作業で細かく注文を取引所に出したり、自社のアルゴリズムトレードを使用したり、自己勘定トレーダーに取り次いだり、といった形です。こういったサービスに対して、顧客は委託手数料を支払うことになります。

セールス・トレーダーと自己勘定トレーダーの大きな違いは、「顧客のお金」で注文をだしているかどうかという点です。自分で銘柄を決めて好きなように売買できるわけではありません。この観点からいえば、セールス・トレーダーはどちらかといえば「セールス」の側面が大きい仕事といえます。

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業者間ブローカー

トレーダーと似た職種で「ブローカー」というものもあります。トレーディングの有名な書籍、"ジャック・D・シュワッガー(著)マーケットの魔術師シリーズ"でも、元ブローカーのトレーダー達が数多くいます。とてもためになる書籍なのでぜひ読んでみてください。

ブローカーとは注文の取次を行う人のことです。前述のセールス・トレーダーも広義のブローカーの一種ともいえますし、そもそも証券会社自体がブローカーです。かつては証券取引所に「場立ち」と呼ばれたブローカーがたくさんいましたが、取引の電子化によって消滅しました。

しかし今でもブローカーと呼ばれる職業は存在します。その一つが「Inter-dealer broker (Broker's broker)」、すなわち「業者間ブローカー」です。略してIDBとも呼ばれます。

大手証券会社の自己売買部門がマーケットメイクを行うにあたって、いかに効率よく在庫を処理するかが重要になります。例えば買いポジションを抱えたときに、他に買ってくれる顧客が見つかればいいのですが、いつもそうとは限りません。時には証券会社によってポジションの偏りが生じることがあります。

そういったときに、証券会社間(業者間)でトレードを成立させて手数料をもらうニッチなビジネスが「Broker's(証券会社の) broker(取次業者)」です。大手証券会社のトレーダーは、ブローカーから他の証券会社は何をいくらで提示しているのかという情報をもらいながら、自分が顧客に出すべき価格を考え、時には証券会社間でトレードを行って在庫を処理しています。

業者間ブローカーにも国内系と外資系が様々ですが、国内系ブローカーとして有名な東京短資株式会社による、"東短リサーチ(株) 東京マネー・マーケット"という書籍では、短期金融市場ブローカーの目線から見た金融市場の動向が解説されており、こちらもおすすめです。

短期金融市場について学べる書籍

余談

次回はさらに具体的な仕事内容について解説

長くなってしまったので今回の記事はここまでとしておきます。

一口に「トレーダー」といっても様々であることが分かっていただけたでしょうか。人によって前提が違うためによく誤解されがちな仕事ですが、経験者の視点から具体的に違いを解説した記事はあまりないと思います。

次の記事では、大手証券トレーダーの実際の仕事内容と、多くの方が気になるであろう収入について具体的に解説します。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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  • この記事を書いた人
Mewcle

Mewcle(みゅーくる)

30代で不動産FIREを達成し個人トレーダーになった元証券トレーダー。
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